大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)369号 判決 1948年6月29日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

辯護人林徹の上告趣意は末尾添附別紙記載の通りである、以下各點に付て其理由のない所以を説明する。

第一點に付て

被告人の抑留中(論旨では勾留中といって居るけれども原判決引用の各訊問調書は被告人等が現行犯手續により逮捕せられてから勾留状を執行せられる迄の間に出來たものである)における司法警察官の訊問調書の記載と公判廷における被告人の陳述と異る場合裁判所は刑事訴訟法第三百四十條による證據調をした上公判廷における陳述の模様態度其他事件に現われた総ての資料に照らし司法警察官の訊問調書の記載の方が真実に合するとの心證を得たときはこれを採ることは少しも差支ない、而して賭博の前科があること、二、三回續けて賭博をしたこと等其他論旨に擧げて居る様な事実は其れ等が各獨立して一つ一つでは常習を認めるに不充分であることは論旨のいう通りであろう、しかし其れ等が加わり合うと其全體によって常習を認めるに充分となる場合は無論あるので原審が本件各被告人に付き其擧示した各資料を綜合して常習を認めたのは相當である、此場合必ずしも前科に付き、其賭博が如何なるものであったかを一々判示する必要はないし又株賭博の如き一般によく知られて居る賭博に付き其方法等を詳細に判示する必要もない、被告人が一定の職業を有して居ることも常習を認める妨となるものではない(大審院判例の場合は前科と犯行との間に長い年月の經過が有ったりなどして本件の場合と同様でない)、論旨は採用し難い。

第三點に付て

現行法の下においては裁判所は起訴せられた事実に付て審判をするのであって檢事の付けた罪名に拘束せられるものではない、記録によれば所論の點に付き起訴せられた事実は「被告人を賭博現行犯人と認めて追跡して來た巡査湯佐重男に對し同所でその顱頂部を石を以て一回毆打し、因て同人に全治迄約二週間を要する裂創を負はせ」という事実であることが明だから公務執行妨害罪の要件たる事実は明白に起訴事実の中に含まれて居る、其故原審は起訴なき事実に付いて裁判をしたのではないので何等違法はない、上記の如く裁判所は檢事の付けた罪名に拘束されるものではないから辯護人も初めから罪名等に關係なく起訴事実に付て防御辯護を爲すべきものである、故に原審が起訴せられた事実に付て審判をしたものである限り所論の様な違法あるものとはいえない。

よって上告を理由なしとし刑事訴訟法第四百四十六條に從ひ主文の如く判決する。

以上は當法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例